米国の代理出産における出生地主義(Birthright Citizenship)とは?
- ACRC Global

- 12月10日
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米国での代理出産を検討されている国外在住の依頼者にとって、出生地主義(Birthright Citizenship)は長年にわたり、法的な安心感を支える重要な要素となってきました。米国では、憲法修正第14条に基づき、米国内で生まれた子どもには原則として自動的に米国市民権が付与されてきました。この制度は、依頼者が米国での代理出産を選ぶ大きな理由のひとつです。
しかし近年、一部の行政命令や政策の動向により、この原則に対しての不確実性が広がりつつあります。
ここでは、以下のポイントをわかりやすく説明します:
・出生地主義を支える憲法上の根拠
・近年の行政措置や裁判所の判断が、代理出産で生まれた子どもに与える可能性
・子どもの米国市民権を確実に守るために、依頼者が取るべきステップ
第14条修正と出生地主義の憲法上の根拠
アメリカ合衆国憲法修正第14条には、次のように定められています。
「アメリカ合衆国内で出生または帰化し、かつその管轄権に服するすべての人は、アメリカ合衆国の市民である。」 (Congress.gov)

この規定が、米国内で生まれた子どもに自動的に米国市民権を付与する、いわゆる「出生地主義(Birthright Citizenship)」の法的根拠となっています。
この条文は「市民権条項(Citizenship Clause)」として知られ、裁判所はこれを、親の移民ステータスに関わらず、米国内で生まれたほぼすべての子どもが出生時に米国市民権を取得すると解釈してきました(American Immigration Council)。
1898年の画期的な判例 「United States v. Wong Kim Ark(ウォン・キム・アーク事件)」 では、両親が移民であっても、アメリカで生まれた子どもは米国市民であることが明確に示されています(Constitution Center, FindLaw).
なお例外として、外国外交官の子どもなどは「米国の管轄権に服する」には該当しないため、市民権付与の対象外とされています (Brennan Center for Justice).
行政命令14160と最近の法的動向
2025年1月20日、トランプ大統領は「米国市民権の意義と価値を守ること」を目的とした行政命令14160に署名しました。
この命令は、市民権条項の解釈を変更し、“一定のケースにおいては出生による自動的な米国市民権を認めない”とする内容を含んでいます。具体的には、不法滞在者の子ども、または学生ビザ・観光ビザなど一時的な滞在資格で米国にいる親の子どもが対象とされています (Wikipedia, Goodwin Law).
さらにこの命令は、該当するケースにおいて、米国旅券(パスポート)や社会保障番号など、市民権を示す書類の発行を停止するよう各政府機関に指示しています (Brennan Center for Justice).
法的な動きと争点
全国的な差し止め命令:複数の連邦裁判所がこの行政命令の執行を阻止し、憲法に違反する可能性が高いと判断しました (Ivy Surrogacy, Village Law Group).
連邦最高裁判決(2025年6月):全国的な差し止め命令の発出を制限し、行政命令の一部または地域限定での執行を認める判断が下されました。
控訴裁判所の判断(2025年7月):第9巡回控訴裁判所は行政命令の執行を阻止し、この命令が第14修正条項に違反すると判断しました(Reuters).
この結果、米国で代理出産によって生まれる外国籍の依頼者の子どもにとって、法的な扱いが州や裁判所によって異なる不確実で分断された状況が続いています。
なぜ、代理出産では出生地主義が重要だったのか
国際的な依頼者にとって、米国での代理出産は長年、以下の理由で魅力的でした。
・子どもが出生時に自動的に米国籍を取得できる
・米国パスポートをすぐに取得できる
・法的な親権や権利関係が明確になる
これにより、無国籍になるリスクや複雑な移民手続きの負担を軽減できました。
しかし、最近の法的な動きにより、特に行政命令を実施する州では、これらの保証が以前ほど確実ではなくなっています。
代理出産家族が直面する法的・実務的リスク
州ごとの運用の差異:州によって出生地主義が認められる場合と認められない場合がある。
書類取得の遅延:パスポートや社会保障番号の取得に時間がかかる可能性がある。
無国籍リスク:米国および依頼者の母国からいずれの国籍も付与されない場合、子どもが無国籍になる可能性がある。
継続的な訴訟リスク:今後の裁判所の判断次第で状況が再び変わる可能性がある。
依頼者が取るべき対策
・生殖医療および移民法に詳しい専門弁護士を雇う
・国籍取得に関する問題を見越して、代理出産契約を慎重に作成する
・現行の法的状況を踏まえて、出産州を戦略的に選択する
・医療記録、法的書類、出生記録などをすべて詳細に保管する
・裁判の判例や政策の変更に常に注目し、最新情報を把握する
ACRC Globalの取り組み
カリフォルニア州・ニューヨーク州を拠点とするACRC Globalでは、代理出産法や出生地主義、関連政策の変化について常に最新情報を把握しています。経験豊富なチームが信頼できる弁護士と連携し、依頼者が不安なく手続きを進められるよう、あらゆる段階でサポートを提供しています。
結論
出生地主義は長らく、米国で代理出産を行う依頼者にとって安心できる基盤となってきました。しかし、近年の大統領令や裁判の判断により、代理出産で生まれた子どもが自動的に米国籍を取得できるとは限らなくなっています。国際的な依頼者は、子どもの将来を守るために、事前の慎重な計画と法的助言のもとで手続きを進める必要があります。
参考資料・追加情報
American Immigration Council – Birthright Citizenship in the United States
Brennan Center – Birthright Citizenship Under the U.S. Constitution
Goodwin Law – Changes to Birthright Citizenship and the Impact on Fertility and Assisted Reproduction
IFLG – What the Supreme Court Ruling on Birthright Citizenship Means for International Surrogacy Clients
Village Law Group – Executive Order on Birthright Citizenship and Impact on Surrogacy

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